■山形県酒田火災復興建設事務所

体制づくり

大火直後の11月18日、酒田市臨時市議会は、大火復興の区画整理事業を、 「事業内容が膨大で、緊急を要し、財政面で酒田市の能力を越えるものがある」 という主な理由で、県による施行の要望書を満場一致で可決した。
山形県ではその要望を受け入れ、12月1日酒田火災復興建設事務所を 中央公民館に開設した。
吹雪の中で整地作業

最も急を要する仕事は用地買収であり、正確な道路計画の測量であった。 52年1月2日、吹雪の中で現地測量が開始され、道路センターの杭うちは 着実に実施された。
整地作業には市民の同意書を必要としたが、説明会場ではまだ理解がうすく、 予期した同意がえられなかった。そこで復興速報で協力を強く市民に訴えた。 2月30日の同速報に市民の要望を盛り込んだ具体的設計概要を示した頃には、 同意書は90%を超すようになった。
2月23日、吹雪の舞う被災地で、修ばつ式が行われ、 「燃えない町づくり」の第一歩が、丘陵地の切り下げ、低地の盛土等を 組み合わせた整地工事によって本格的に始動した。

公用地(道路・公園)のための個人の土地提供(減歩)と買収の推移

この事業を成功させるには多くの課題があったが、罹災者の減歩を13%に 抑えることが是非必要であった。 被災地の用地買収は事業遂行の鍵を握るものであり、 各部より臨時編成された約20名の用地班は、市開発公社を中心として 16,400m2の用地買収を12月中旬に完了という 目標に向かって土地提供者を訪れた。
市は酒田税務署と緊密な連絡をとりながら、市に土地を売却する場合は 租税特別措置法によって3千万円の特別控除が受けられ、 代替地提供者も1千5百万円の控除があるので、 罹災者の足元を見透かすブローカーには用心するよう協力を求めた。 また、買収単価も不動産鑑定士による正常価格の鑑定を参考にし、 市の土地評価委員会で適正な価格を算定して市民の理解につとめた結果、 12月中旬に入り目標の60%を確保することができた。
しかし、一つの不安が持ち上がった。買収の同意を得た地域が、一番町、 新井田町に片寄っていることである。全地域平均して買収できないと、 換地上のアンバランスが生じ、地区毎の減歩が大きく変化する恐れが生ずるので 商業地域の方に土地提供を再度強く要望したが、 商店街の一等地を手離す人は極めて少なかった。 市は最後の呼びかけとして愛宕神社、天満宮、その他多くの社寺用地、 駐車場用地等の所有者の協力を求めた結果、大口の提供者もあり、 16,000m2の目標達成の目途がついた。
用地買収も最終的には、目標を大きく上回り、24,000m2に近づいた。 当初9億と予定された用買費も減価補償金充当分が約19,000m2で 12億3千万円、その他酒田市が公益施設、過少宅地の減歩緩和予定地、 消防施設用地、その他公共的用地として確保したものが 約5,700m2、4億円となり、 減歩率を12.4%までに引き下げられるようになってきた。
なお、地元土地区画整理組合連合会からは8組合で27宅地の提供があり、 うち34宅地約15,000m2が罹災者の希望する宅地となった。
■仮換地の指定<復興土地区画整理事業>
審議委員の選挙
土地区画整理審議会の目的は、土地区画整理事業を民主的に、 また権利者の意見を直接反映するために設置される施工者(山形県)の 補助機関である。
審議会委員は、土地の権利に関して直接罹災者の利益に関係するので、 公正中立の判断のできる人、また総合的な調整のできる人が望まれ、 10名の委員中2名は学識経験者の中から山形県知事が任命し、 残りの8名を選挙によって選ぶことになった。
1月13日、選挙人名簿が確定し土地所有者1,001人、借地権者5人の 計1,006人となり、委員定数は前者が7人、後者が1人と決定した。
借地権者の立候補者は1人で無投票、土地所有者は2人の定員オーバーで 2月13日復興事務所で選挙が行われ翌14日当選人が公告通知された。
仮換地原案の発表
審議会の審議をへて、仮換地原案の図面が3月4日、住宅街の新井田町から 供覧された。宅地の全部が道路に面するように整然と区画され、 宅地位置、面積、減歩率が一目でわかるようになっていた。 以来3月7日までに各地区の供覧が実施され地権者847名に新しい宅地が 原案として示された。
原案に対する意見を文書で求めたところ280件(全体の30%)が出され、 大きな波乱を呼んだ。よって修正可能なものは極力修正する方針で作業が進められた。
表に示すように、地権者、審議委員、復興建設事務所一体となって、 懸命な修正努力が続けられた。

原案(3月1日) 第1回修正案
(3月25日)
第2回修正案
(4月19日)
第3回修正案
(6月9日)
意見・要望項目 件数 件数 件数 件数
間口が狭い 84 30.0 29 23.8 35.3 28.6
市有地の調整地が欲しい 67 23.9 32 26.2 5.9 14.3
位置が悪い 61 21.8 27 22.2 5.9 42.8
減歩率が高くて不公平 18 6.4 4.9 5.9 14.3
モールだけに面して不便 11 4.0 5.0 17.6
他の土地と交換して欲しい 11 4.0 4.9 5.9
集合換地を望む 10 3.5 3.3
その他工事等の要望 10 3.5 10 8.1
土地の形状が悪い 2.9 1.6 5.9
焼け残った建物の保全         17.6
計 (A) 280 100.0 122 100.0 17 100.0 100.0
全権利者に対する割合 (A) / (B)   27.8   12.1   1.7   0.7
(B) 全権利者数1,006名

仮換地の指定
6月9日に開かれた第8回審議会で「第1回仮換地」を慎重な討議のうえ、 全員一致で了承した。県ではこれを受け、6月10日付で各戸毎に 指定通知を発送し、2週間後に仮換地の指定と、土地を使用して住宅を建てる 「使用収益の開始」を同時に発効させた。
6月10日の第1回指定からはじまった仮換地の指定は、8月31日の 第4回目ですべて終了した。 この間6回(通算14回)の土地区画整理審議会が開催され、一筆ごとの指定の可否、 仮換地の調整などについて、罹災者と関係市民の代表としての立場から、 徹底的な審議が行われたが多数決による決定は一度もなく、すべて 全会一致による審議会の意見が県知事に答申された。
このように幾多の問題はあったものの、大火直後の12月1日開所以来、 わずか8ヶ月にして、復興の最大難関を突破できた。 二度と大火の惨事をくりかえさないという、 市民の防災都市づくりの熱意によるものであった。